バイクのタイヤのコンパウンドの見極め方

グリップ力には、粘着摩擦力とヒステリシス摩擦力というふたつの要素があり、この2つの摩擦力が発生するメカニズムによってタイヤのグリップ力は性格付けられていると前回まで書いてきました。ただ、そうしたタイヤのグリップというものは頭の中でイメージして認識するしかなく、今一歩ピンと来ない人もいると思います。


そこで今回は、実際にコンパウンドそのものに触れてみようと思います。良くタイヤのトレッドを指の爪で押し、その感触から「このタイヤは柔らかくてグリップが良さそうだ」などと言っている人がいます。



確かにそれもあながち間違っているわけではありません。
実際、コンパウンドが柔らかいと路面の凹凸に食い込み、引き伸ばされやすいので粘着摩擦力が大きくなります。
接地面を自分の靴の底に例えた時、底ゴムが柔らかければ食いついて滑りにくくなることは簡単に想像できると思います。
また、柔らかければ変形しやすく、ヒステリシスロスの大きさにもつながります。
しかし、柔らかければヒステリシスロスが大きくなり、それによる摩擦力も大きくなるというのではないのです。
地面や壁にぶつけると、跳ね返って戻ってくるスーパーボールを思い出してください。
スーパーボールが元の場所に戻ってくる事はゴムのヒステリシスロスが極端に小さいからです。
逆に壁にぶつけた時、ほとんど弾まず跳ね返らないボールもあります。
そのボールの粘性が大きく、エネルギーがゴムに吸収されるわけで、ヒステリシスロスが大きいことになります。
レーシングスーツのパッド材のスポンジにも、こうした物性の物が使われています。



さて、ゴムの性質によって、柔らかくてもそのまま跳ね返ってくるものがあれば、逆に硬くても弾まない物もあります。
前者は柔らかくてヒステリシスロスが小さく、後者は固くてヒステリシスロスが大きいからです。
上記の実例が示すように、コンパウンドの柔らかさはヒステリシス摩擦の大きさと、必ずしも一致するものではありません。
コンパウンドが柔らかくても、必ずしもグリップが良く、コントローラブルであるという事にはなりません。
しかし、その違いはコンパウンドに障ることだけでも、ある程度は判断できます。
まず、指の爪をコンパウンドに押し当てて、押し当てた力に対してどれだけの深さ食い込んだかで、ゴムの硬度を知ることができます。
つまり、ゴムの柔らかさを意味します。
さらに同時に指先に集中して感じ取りたいのは、同じ力で爪を押し当てた時の食い込み方です。
爪がゴムの中にスッとではなく、ジワ~っと戻ってくるのであればヒステリシスロスが大きいという事になります。
まぁ指の感触と実際のグリップとの関係は厳密には目安程度にしかならないにしろ、このようにトレッドコンパウンドは、何でもないただのゴムのようでも実に奥が深くて掴みどころのない代物なのです。

次回はこのコンパウンドの事に加え、タイヤ温度が与える影響について書こうと思います。

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